人生100年時代、長期化する「おじさん期」をどう生きるか?

佐々木俊尚の未来地図レポートのアーカイブ Vol.650をお送りします
佐々木俊尚 2022.11.03
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佐々木俊尚現在の視点

「何歳からおじさん・おばさんになるのか?」という興味深い議論。博報堂の調査によると、「43歳ぐらいから」という意見が平均的だったそうです。

この年齢感が時代とともにどう変化してきたのかを論じています。

長期化する「おじさん」年齢。いまや43歳から68歳までの長期に〜〜寿命が伸びて人口も減っていく時代のグランドデザインを考える

皆さん、「中年」というのは何歳からのことを指すと思いますか?

 博報堂生活総合研究所の「生活定点」という調査があります。これは2年に1度、首都圏と阪神圏の人を対象に、日本人の暮らしや意識をさまざまな側面からアンケートをとって調べているものです。この「生活定点」の2020年調査に、どんぴしゃりの面白い項目がありました。それは「『おじさん』とは、何歳くらいからをさすと思いますか」という質問。

 この回答を平均すると、43.24歳だったそうです。ちなみに「おばさん」もほぼ同じで、43.12歳。つまり42歳ぐらいまでは、男女ともまだ若者として認知されているということになります。

 私は1961年生まれで、20代の若者だったのは1980年代のことです。バブル経済に向かおうとしていたこのころを振り返ると、30歳になればもう中年の域で、若者と言えるのは20代の終わりまでというのが共通認識だった記憶があります。当時と比べれば、若者の年齢はずいぶんと広がりました。

 この年齢の話は、SNSなどでもよく話題になっています。たとえば一1960年代のテレビドラマ「ウルトラマン」シリーズの隊長役だった小林昭二氏さんや中山昭二氏さんは当時30歳代後半だったのですが、いまの時代から見ると5〜60歳代ぐらいに見えます。逆に彼らと同じ年齢でいま活躍している人だと、ジャニーズの人気グループ「嵐」のメンバーがそれに当てはまるという指摘があり、昔とのギャップに驚かされます。たしかに37歳の二宮和也さんや39歳の櫻井翔さんは、若者にしか見えません。

 先ほどの博報堂の「生活定点」では、「『お年寄り』とは、何歳くらいからをさすと思いますか」という項目があり、こちらの回答は平均すると68.66歳でした。中年の時期もかなり後ろにずれており、43歳から68歳ぐらいまでという感じでしょうか。70歳ぐらいになってようやくお年寄りの仲間入りをするということになります。

 日本をふくめ多くの国では、高齢者を65歳以上と定義しています。しかし現在の65歳の人は、自分を高齢者だとは思っていない人が多いでしょうね。日本老年医学会は、高齢者を「75歳以上」という定義に変更し、65歳〜74歳は「准高齢者」としようと提言しています。

 なので高齢者のイメージも、昔とはずいぶん変わっています。1970年代の手塚治虫漫画「ブラックジャック」では、60歳の女性がよぼよぼで腰の曲がった高齢者として描かれるシーンがいくつかあります。この外見も、現代の感覚だと80歳代ぐらいにしか見えません。いや、農業に携わる人はかつて3000万人から今は200万人弱にまで減ってしまっているので、畑仕事で腰が曲がってしまう人自体が(現在の80〜90歳代をのぞけば)ほとんどいなくなってきています。

 いまだにイラストなどでは、「おばあさん」のイメージとしてひっつめ髪に着物の人を描きますが、こういう高齢女性ももう見ないですよね。最近の高齢者は、わたしの観測範囲だと、男性はだいたいアディダスやナイキなどのスポーツウェアを着ている印象。女性は華やかな原色の服を着ている人が多いのではないでしょうか。また地方に行くと老若男女が「しまむら」の服を着ていて、後ろ姿からだと年齢さえよくわかりません。

 あきらかに私たちは若返っているのです。

 この背景には平均寿命そのものが伸びていることに加え、健康に気を使う生活があたりまえになり、スポーツなどで身体を鍛え、食生活のバランスにも気をつけるということが当たり前になったということがあるでしょう。

 昨年話題になった書籍『LIFESPAN(ライフスパン)老いなき世界』(東洋経済新報社)は遺伝学の専門家であるハーバード大のデビッド・A・シンクレア・ハーバード教授が著したものですが、医学の進歩で近い将来、平均寿命は控えめに見積もっても113歳まで伸ばすことが可能だとしており、大きな注目を集めました。これは決して、胃ろうのような延命治療で寿命を伸ばすという話ではありません。

 そうではなく、シンクレア教授は老化そのものを「治療できる病気」と断言しているのです。生命が老いていくメカニズムは解明されつつあり、それは「情報の喪失」だそうです。

 人間の身体の設計図はDNAですが、同じDNA情報を持つ細胞を神経細胞や皮膚細胞などに変えていくのは、エピゲノムという仕組みです。そしてDNAはATGCの四つの組み合わせでできているデジタル情報ですが、エピゲノムはアナログ的。デジタルデータはコピーしても決して劣化しませんが、音楽のレコードやカセットを長く聴いているとすり切れていくように、アナログのエピゲノムはだんだんと劣化する。つまりノイズが入るようになるということです。これが老化の原因だというのですね。

 シンクレア教授は、アナログ情報は劣化するけれどもデジタルなDNA情報は失われているわけではないので、このデジタル情報を回復できるようにすれば、人間は老いなくなると言っています。そしてこうも言い切っている。「そもそも、生命に終わりがなければならないという法則は、生物学的・化学的・物理学的にも存在しない」

 いまの先進国の平均寿命は80歳ぐらいになっていますが。これがどのぐらい伸ばせるか。今後50年のあいだに医療のテクノロジの発達で、健康寿命は10年伸ばせるとシンクレア教授は言います。これに加えて、自己管理をきちんと行えば、5年追加できて合わせて15年。また長寿遺伝子を働かせる分子の摂取で、健康寿命は10〜40%伸ばせるという動物実験ができており、かりに10%とすれば、8年伸びます。これで合計で23年。さらに老化細胞を薬やワクチンで除去できるようになったり、遺伝子改変で臓器を移植できるようになれば、10年ぐらいは追加できるとしています。

 これで合計33年の延長。つまり80歳に33歳を足して、113歳になるというわけです。さらに「細胞のリプロラミングが可能になれば、今世紀末までに150歳が手の届く年令になっている可能性も」といいます。

 単に延命治療でヨボヨボのまま生き長らえるのではなく、老化が遅れて若々しいまま健康寿命を伸ばせるのであれば、長く生きたいと思う人は多いでしょう。実際、『LIFESPAN』でも「永遠に生きたいか」とか「100歳まで生きたいか」と問うと、イエスと答える人は少ないけれども、その選択肢に「健康的に」というひとことを加えると、イエスの人は急に増えるという世論調査の話が紹介されています。

 とはいえ、健康寿命が伸びて高齢者が長生きすることは、社会にとって必ずしも良いことではありません。実際、わたしが『LIFESPAN』の書籍についてツイートしたら、けっこうな数で次のような趣旨のリプライがありました。「70歳とか80歳の管理職が増えたりしたら、すごくイヤ」

 健康寿命の「健康」というのは身体の健康のことであり、決して精神の健全さを指すわけではありません。実際、いまの日本でも高齢で身体はしっかりしているのに、精神は老いて「老害」みたいになっちゃっている人はいっぱいいますね。皆さんの周りにも一人や二人いませんか?

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