AIが再現する人間の個性、「その人らしさ」とは何か
佐々木俊尚現在の視点
生成型AIが急激に進化しているいまだからこそ、「AI美空ひばり」のようなパーソナリティの再現が社会に与える影響についてあらためて考える時期が来ていると思います。パーソナリティとAIニツイテの論考です。
私たちの「パーソナリティ」は何によって構成されているのか?~~ローマンとユージニアをめぐるたったひとつの物語(中編)
サンフランシスコのルカ(Luka)社が開発した「Replika(レプリカ)」というAIのアプリについての続きです。これはAIによって自分のパーソナリティを再現し、自分と会話ができるという興味深い方向を指し示しています。
◆Replikaa
https://replika.ai/
前回の物語で書いたように、ルカの女性創業者であるユージニア・クイダは、親しい友人ローマン・マズレンコを交通事故で亡くし、彼の墓碑銘となるようなことがなにかできないだろうかと考えました。そこでローマンと生前にやり取りしていた膨大なチャットの中身をAIのニューラルネットワークに流し込み、そこからさまざまな口癖や文体などの特徴を抽出して、彼の人格のようなものを再構成させることに成功したのです。チャットのテキストはユージニアとの間のものだけでなく、彼の家族や友人たちに協力してもらい、最終的には8000行に上るテキストが集まりました。
ローマンは生前、起業したスタートアップのスタンプシー社が破綻しかけていた時に、インキュベーターとして有名なYコンビネータに対して「タイガ(Taiga)」という名前の新しい墓地を提案していました。死者は生分解性のカプセルの中に収められて地面に埋葬され、その上に樹木を植える。木の根元には故人のよすがとなる情報を提供するディスプレイが設置されるというものです。
ローマンはこう書いていたそうです。「 死を再設計することは、人間の経験やインフラ、都市計画への私の永続的な関心の礎石です」と。
残念ながら、Yコンビネータはこのローマンの申請を受け入れませんでした。しかし人々のSNSでの活動がますます活発になり、しかも長期に渡っていくと、SNSでの履歴がその人そのものを表現するものになっていくのだという認識は受け入れられるようになるかもしれません。FacebookやTwitterが使われるようになったのは2000年代後半からのことで、まだわずか10年ほどの歴史しかありません。
現時点では、SNSで集められるパーソナリティの情報には限度があります。だからこうしたボットが完璧にパーソナリティを再現させているのだろうかと考えると、疑問はたくさん出てきます。私は日ごろからSNSやメールなどを良く使っていますが、だからといって過去に書いた原稿やツイート、ブログの投稿、インスタグラムの写真、電話の通話の音声などのすべてをAIで解析したからと言って、本当に私と同じものが現れるのでしょうか。たとえば文章が下手だったり、口下手であまり喋らないような人だったら、その人のパーソナリティは再現不可能になってしまうのでしょうか。でもそういう口下手な人には口下手な人なりのパーソナリティというのがあるのではないでしょうか。