体も脳も代替される時代、人間の本質について【伝説のSF漫画を読み解く・上編】
佐々木俊尚現在の視点
AIの爆発的な進化によって、改めて「AIに奪われない人間性とは何か」が議論されるようになってきています。
この議論の補助線になってくれるのが、アニメ化や実写映画化でも有名な「攻殻機動隊」。
この作品で描かれる「ゴースト」から人間性について考えます。
アニメ「攻殻機動隊」の時代による変化から見えてくるもの 〜〜テクノロジ時代にも生存していく人間の本質とは(前編)
今年、伝説的な漫画・アニメ作品である「攻殻機動隊/ゴースト・イン・ザ・シェル」が、ハリウッド映画としてリメイクされました。本メルマガではあまりアニメ系のコンテンツについて取り上げてはいないのですが、この作品が非常に興味深いテクノロジ観を表現していており、今回はこの話をしたいと思います。
攻殻機動隊はもともと、1991年に刊行された士郎正宗の漫画です。最初に連載されたのは「ヤングマガジン海賊版」で、1989年。30年近くも前のこの時代に、これほど先進的な未来世界が描かれているのは、驚くばかりです。
以降、膨大な派生作品やアニメが作られており、全体を網羅するのは容易ではありません。ご存知ない人のために、作品のベースとなる世界観を簡単に説明しておくと、以下のようなものです。
舞台は2030年代。主人公の草薙素子少佐(ハリウッド版では、キリアン少佐という名前になっています)は、テロなどを防ぐ公安警察の舞台「公安9課」に所属。この時代にはサイボーグ技術が極度に進んでいて、多くの人々が「義体」と呼ばれる機械の身体を使っています。義肢や義手の発展したものという意味で、「義体」と呼んでいるんですね。さらに人々の首の後ろ側には、コネクタのようなものがあって、脳に直接インターネットを接続できるようにもなっています。脳そのものを、機械化する技術も出てきています。
脳が機械化されてしまうと、人間の本質とはいったいどうなるのか?というのが、この作品のテーマのひとつです。「ゴースト」という概念が出てきます。肉体も脳も機械化していった先に、最後に残る人間らしさのようなものを指す言葉で、ウィキペディアの「攻殻機動隊」の項目には、こう定義されています。「あらゆる生命・物理・複雑系現象に内在する霊的な属性、現象、構造の総称であり、包括的な概念である。作中においては主に人間が本来的に持つ自我や意識、霊性を指して用いている」
もともと「ゴースト・イン・ザ・シェル」というタイトル自体、アーサー・ケストラーが1967年に出した『機械の中の幽霊』(ちくま学芸文庫、絶版)から来ています。同書の現代は「ザ・ゴースト・イン・ザ・マシーン」なのです。そして攻殻機動隊の基本的な概念も、ケストラーのこの本からかなりインスパイアされています。
ちょっと横道に逸れますが、「機械の中の幽霊」について解説していきましょう。