良質なコンテンツが読まれ続けるために

佐々木俊尚の未来地図レポートのアーカイブ Vol.302をお送りします
佐々木俊尚 2022.10.13
読者限定

佐々木俊尚現在の視点

過去記事を読まれるようにする価値についての記事です。たとえばニューヨークタイムズは、ニック・クリストフというライターが書いた売春についての記事を「売春宿の内側で」というシリーズにまとめ、このリパッケージによって最新記事以上の読者を獲得するのに成功したとか。

特集1 過去のコンテンツを「リパッケージ」するという新しいメディアビジネス 〜〜ニューヨークタイムズの内部報告書にみるメディアの未来(3) 

新しい記事だけではなく、蓄積された記事の過去アーカイブはとても重要ということが、ニューヨークタイムズの内部報告書で指摘されています。これは重要な話だと思うので、今回はそのあたりのことを。

 音楽や舞台、書籍、グルメといった文化的なコンテンツは特にそうで、舞台レビューが新着記事として書かれた以降も、良い芝居ながら長い期間にわたって上演され続けているのです。ところが新聞社のサイトでは、このレビューを過去記事の中から見つける動線がうまくつくられていません。だったら、そういう読者のためのランディングページを通常のウェブページに加えて補助線としてつくっておけば、もっと読者を発掘できるのでは、と報告書は指摘しています。

■By the Book - Archive http://nyti.ms/UqaDO6

■提案されているBook Review Complete Archiveページ

https://dl.dropboxusercontent.com/u/149086/140621_bookreview.png

 このあたりの施策をとても上手にやっているのが、雑誌アプリのFlipboard(フリップボード)。たとえばFlipboardはしばらく前に、「2014年に亡くなった著名人」という特集をつくり、これはFlipboard史上最も読まれたコンテンツになったとか。そしてこの死亡記事の寄せ集めのソースは、実はニューヨークタイムズだったんですね。タイムズが書いた記事のアーカイブを、Flipboardがうまく「リパッケージ(再構成)」して、読まれるコンテンツに変身させたということなのです。ニューヨークタイムズとしては「どうしてわれわれの記事をリパッケージするだけで、他のプラットフォームにこれだけ利益が行っちゃうんだ!」と叫ばざるをえないでしょうね。

 このように古い記事アーカイブを活用し、リパッケージすることによって、トップページに露出などさせなくても十分に読まれるようにすることができる。これは新聞社のように「一面から読んでもらう」「大事な記事は一面トップ」というような、トップダウン的な動線に慣れきってしまっている文化にとっては、かなり衝撃的な事実なのかもしれません。

 しかしウェブの世界にはそもそもトップもボトムもなく、一面もトップページもなく(もちろん物理的にはあるけれど、理念的には重要ではない)、すべてはフラットなリンクがあるだけです。そういうウェブ文化に慣れている側から見れば、「何をいまさらトップページとか言ってるんだろう?」と失笑してしまう感じもありますが……。

 ニューヨークタイムズは、ニック・クリストフが書いた売春についての記事をリパッケージし、1996年〜2013年のあいだの7本の記事を「売春宿の内側で」というシリーズにまとめています。7本の記事は単なる過去アーカイブになっていてこれまではほとんど読まれていなかったのですが、リパッケージによって最新記事と同じぐらいかそれ以上の読者数を獲得するのに成功したそうです。公開初日にはアクセスランキングが8位になり、公開から6日後にもページビューは減らず、トータルのビューは46万8106に達しました。

この記事は無料で続きを読めます

続きは、6088文字あります。
  • 特集2 なぜ重信房子とウンリケ・マインホフは女性テロリストになったのか 〜〜映画『革命の子供たち』から学ぶ、1969年革命の大きな教訓 

すでに登録された方はこちら

読者限定
「人はただ記憶によって個人たる」攻殻機動隊が提示した哲学【伝説のSF漫...
読者限定
体も脳も代替される時代、人間の本質について【伝説のSF漫画を読み解く・...
読者限定
AI 時代の新教養(3)マーケティングのプロが完敗した「AIの見えざる...
読者限定
AI 時代の新教養(2)人工知能の育て方「バックプロパゲーション」とい...
読者限定
AI 時代の新教養(1)「閾値を超えると発火」AIと人間に共通する思考...
読者限定
AIがコピーした人格は偽物なのか?近い将来に直面する「不気味の谷」問題...
読者限定
AIが再現する人間の個性、「その人らしさ」とは何か
読者限定
「死んだ友人をAIにする」悲劇をテクノロジーで乗り越えようとしたロシア...