良質なコンテンツが読まれ続けるために
佐々木俊尚現在の視点
過去記事を読まれるようにする価値についての記事です。たとえばニューヨークタイムズは、ニック・クリストフというライターが書いた売春についての記事を「売春宿の内側で」というシリーズにまとめ、このリパッケージによって最新記事以上の読者を獲得するのに成功したとか。
特集1 過去のコンテンツを「リパッケージ」するという新しいメディアビジネス 〜〜ニューヨークタイムズの内部報告書にみるメディアの未来(3)
新しい記事だけではなく、蓄積された記事の過去アーカイブはとても重要ということが、ニューヨークタイムズの内部報告書で指摘されています。これは重要な話だと思うので、今回はそのあたりのことを。
音楽や舞台、書籍、グルメといった文化的なコンテンツは特にそうで、舞台レビューが新着記事として書かれた以降も、良い芝居ながら長い期間にわたって上演され続けているのです。ところが新聞社のサイトでは、このレビューを過去記事の中から見つける動線がうまくつくられていません。だったら、そういう読者のためのランディングページを通常のウェブページに加えて補助線としてつくっておけば、もっと読者を発掘できるのでは、と報告書は指摘しています。
■By the Book - Archive http://nyti.ms/UqaDO6
■提案されているBook Review Complete Archiveページ
https://dl.dropboxusercontent.com/u/149086/140621_bookreview.png
このあたりの施策をとても上手にやっているのが、雑誌アプリのFlipboard(フリップボード)。たとえばFlipboardはしばらく前に、「2014年に亡くなった著名人」という特集をつくり、これはFlipboard史上最も読まれたコンテンツになったとか。そしてこの死亡記事の寄せ集めのソースは、実はニューヨークタイムズだったんですね。タイムズが書いた記事のアーカイブを、Flipboardがうまく「リパッケージ(再構成)」して、読まれるコンテンツに変身させたということなのです。ニューヨークタイムズとしては「どうしてわれわれの記事をリパッケージするだけで、他のプラットフォームにこれだけ利益が行っちゃうんだ!」と叫ばざるをえないでしょうね。
このように古い記事アーカイブを活用し、リパッケージすることによって、トップページに露出などさせなくても十分に読まれるようにすることができる。これは新聞社のように「一面から読んでもらう」「大事な記事は一面トップ」というような、トップダウン的な動線に慣れきってしまっている文化にとっては、かなり衝撃的な事実なのかもしれません。
しかしウェブの世界にはそもそもトップもボトムもなく、一面もトップページもなく(もちろん物理的にはあるけれど、理念的には重要ではない)、すべてはフラットなリンクがあるだけです。そういうウェブ文化に慣れている側から見れば、「何をいまさらトップページとか言ってるんだろう?」と失笑してしまう感じもありますが……。
ニューヨークタイムズは、ニック・クリストフが書いた売春についての記事をリパッケージし、1996年〜2013年のあいだの7本の記事を「売春宿の内側で」というシリーズにまとめています。7本の記事は単なる過去アーカイブになっていてこれまではほとんど読まれていなかったのですが、リパッケージによって最新記事と同じぐらいかそれ以上の読者数を獲得するのに成功したそうです。公開初日にはアクセスランキングが8位になり、公開から6日後にもページビューは減らず、トータルのビューは46万8106に達しました。
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