「信頼できないメディア」を見分ける4つのポイント
佐々木俊尚現在の視点
シャープパワーとは、相手の国に情報操作などを行って影響を与えようとすること。ジョセフ・ナイという政治学者がとなえたソフトパワーという言葉があり、軍事力や経済力などの強い力であるハードパワーだけでなく、文化や教育といった柔らかい力が必要だとして彼はソフトパワーという言葉をつくりました。それに対してSNS時代の21世紀には、世論のかく乱がより容易になってきているということがあります。
偏りの強いメディアの氾濫、そしてシャープパワーが台頭する時代〜〜偏りがなく奥深い情報を読むためのたったひとつの方法(第2回)
情報収集のコツについて指南する第二回です。前回も書いたように、カギとなる視座として二つの「落とし穴」を考える必要があります。
第一に、あなたが読んでいるその情報は、偏っていないだろうか?
第二に、あなたが読んでいるその情報は、薄っぺらくて表面的ではないだろうか?
偏りの強いメディアってどんなもの?と思う方もいらっしゃるでしょう。例を三つ挙げてみます。
◆大紀元時報
https://www.epochtimes.jp/
この右派系のウェブメディアは中国の深い情報などが書かれていて勉強になることも多いのですが、実は法輪功という宗教団体が運営しています。法輪功は中国政府から弾圧されているため、大紀元時報の記事は中国政府に対して強く批判的で、かなり過剰なことがあります。このメディアそのものを否定するわけではないけれども、こういう背景を知ったうえで読んだほうがいいでしょう。
◆リテラ
https://lite-ra.com/
これは左派系メディアとして有名ですね。「本と雑誌の知を再発見」と知的なサブタイトルがついていますが、実際はかなり極端に左に偏っています。記事の見出しを眺めていると、まるで極左の中核派か革マル派の機関紙のようです(笑。
実はこのメディアは、1980年代ぐらいに人気のあった雑誌「噂の真相」の編集部員たちが中心になって作られたものです。「噂の真相」は反権威を標ぼうして右も左も徹底的にバカにしていた自由な雑誌メディアでしたが、なぜか「リテラ」になってからは左に強く偏りました。「深く掘り下げているように見えるが、実のところは陰謀論」的な記事もかなり多いので注意が必要です。
◆スプートニク日本ニュース
https://jp.sputniknews.com/
これはロシア政府系の通信社で、日本語のサイトもあります。政府系と言うと信用できそうな気もしますが、ロシアは中国と並んでシャープパワーの本場。
シャープパワーというのは聞き慣れない用語かもしれませんが、相手の国に情報操作などを行って影響を与えようとすることです。これはもともと、アメリカのジョセフ・ナイという政治学者がとなえたソフトパワーという言葉から来ています。他国に影響を与えるには、軍事力や経済力などの強い力であるハードパワーだけでなく、文化や教育といった柔らかい力が必要で、これをナイはソフトパワーと呼んだのです。
実際、第二次世界大戦後のアメリカはハリウッド映画やジャズ、ポップス、ロックなどの音楽、アイビーリーグに代表される高等教育などで世界を魅了しまし。冷戦のころ、軍事力や経済力では当初はアメリカと互角だったソ連はソフトパワーが皆無で、それが原因で衰退してしまった面もありますね。
ソ連が終わって、アメリカが唯一の超大国になって、1990年代にはついに平和な時代がやってくるかと世界の皆が信じていましたが、21世紀になってみたらまったくそんな明るい未来にはなりませんでした。テロが多発し、ロシアが復活し、そして中国が強大になった。ロシアも中国もソフトパワーは乏しいけれども、他国に情報戦=シャープパワーをしかけまくっています。たとえばトランプが当選した2016年の大統領選挙では、ロシアがSNSを駆使してアメリカ国内にプロパガンダを流し、トランプを後押ししたという疑惑がささやかれていますね。
中国やロシアが日本でどんなシャープパワーを駆使してるのかは、まだあまり明らかになっていません。スプートニク日本ニュースのようなしょうもないニュースサイトぐらいなら笑い話ですむかもしれませんが、ひょっとしたらすでにいろんなところに手を伸ばしているかもしれません。
だから偏りのあるメディアに注意するのは、ほんとうに大事なことなのです。そういうメディアを「読むな」とまでは言いませんが、とにかく厳重な「取り扱い注意」であるのは間違いありません。
では、こういう偏りのあるメディアを、どうすれば見分けられるのでしょうか。これは案外むずかしい課題で、絶対的な手段はありません。ただ、見分けるためのいくつかのポイントがあります。それを指南しましょう。
(1)できごとの構図を単純にしすぎて、しかも断言していないか。