生産の国内回帰が私たちの暮らしを変える/「コロナ後」とテクノロジー(2)

佐々木俊尚の未来地図レポートのアーカイブ Vol.631をお送りします
佐々木俊尚 2022.09.29
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佐々木俊尚現在の視点

コロナ禍でグローバルサプライチェーンが毀損し、「モノを持たない」ミニマリストのライフスタイルは高度な物流に依存していたことがあらためて明らかになりました。その先に「モノをたくさん持っておく」というプレッパー的な考え方とミニマリストは融合していくのかも?という話を書いています。

グローバルサプライチェーンが危機になった先には何が待ち受けるのか

〜〜「コロナ後のライフスタイルとテクノロジー」経済倶楽部講演から(中編)

今年6月5日に歴史ある「経済倶楽部」でわたしがおこなった「無観客」講演の内容を紹介するシリーズの2回目です。演題は「ポストコロナ時代のライフスタイルとテクノロジー」。

 前回は、いまの時代の情報通信と物流のテクノロジーはいかにして、リアルタイムで商品やサービスを消費者に届けるのかということに注力しているということを解説しました。 

 これらの配送システムは、もう国内の小さなコンビニとかアマゾンの話だけではなく、グローバルに展開されています。コンテナが普及したことによってグローバルサプライチェーンがどんどん進化してきている。コンテナが始まったのは意外に最近で、1950~60年代ぐらいでコンテナ革命と言われています。

 それ以前はコンテナという長方形の箱は存在しておらず、荷物を運ぶときには貨物船の船室に一個一個、個別に包装されたものを持ち込んで積み上げていたわけです。当然、それぞれ形が違うので積むのが結構大変で、その積むための技術がいわゆる港湾作業の非常に重要な核だったわけです。でも、これがコンテナになったことによって、船室にうまく荷物を積み込むというスキルが必要なくなってしまって港湾作業の仕事がなくなり、たいへんなストが起きたりしました。コンテナ革命によって仕事はなくなったけれども、一方でグローバルに物をどんどん送るスピードが非常に速くなったというメリットがあったわけです。

 実際、こういうグローバルサプライチェーンと言われるグローバルに物がどんどん流れていくという仕組みで、今のさまざまな電子機器や製品はつくられています。

 グローバルサプライチェーンの航路、すなわちコンテナ船が移動している航路を可視化するとどんなふうに見えるか。すごい勢いで全世界に網の目のように広がっていて流れている。

 アップルのiPhoneは、どこでつくられた部品を集めているのかをご存知でしょうか。ドイツや中国、それからもちろん日本、あとスイスとかアメリカとか、いろんな国でつくられた部品、それ以外にも、今ではマレーシアとかインドネシアも含まれてきます。あらゆる国で部品が供給されており、それらが中国の深圳にある鴻海工業の工場に集められて組み立てられる。だからiPhoneのケースの裏側を見ると、メイド・イン・USAではなく、マニュファクチャード・イン・チャイナと書かれていますね。アップルはアメリカの会社なのでもちろんアメリカの製品なのですが、アメリカでやっているのはデザインと技術開発だけで、実際の組み立ては中国で行っているということなのです。

 しかも、中国の深圳で組み立てられたiPhoneはアメリカに送られるのかというと、そんなことはない。もちろんアメリカで消費する分はアメリカに送られるけれども、日本人がiPhoneを買えば中国の深圳から直接日本に送られてくる。

 実際、わたしはこの夏にMacBookProを久しぶりに買い換えたのですが、宅急便でやってきました。宅急便がどういう配送経路で来たのかは、今ヤマト運輸とかはウエブサイトで見ることができますが、出荷場所は上海になっていました。だから、やっぱり深圳辺りで組み立てたものが上海経由で船に乗せられて、日本にやってきたんだろうなと、そういう世界になっているわけです。

 実際に、iPhoneはアメリカ製であるにもかかわらず、大半のiPhoneはアメリカの国土を通らない。各国の部品供給元から中国に集められ、中国から直接消費地にiPhoneの完成品が送られる、そういうネットワークになっているわけです。

 ところが、これが今回ご存じのようにコロナでほぼ壊滅的にストップしてしまいました。そもそも、ほかの海外の国に入国できなくなってしまった。グローバルサプライチェーンは、一瞬にしてこの2カ月、3カ月ぐらい絶たれるという非常に驚くべき状況です。もちろん人が移動しなければ貨物を動かすのは可能なので、現状中国から日本へも荷物はきちんと来ている。けれども、スピードとかを含めて非常に阻害されているという状況になってきているわけです。

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