TwitterやFacebookを「流行のトレンド」ととらえるのは大きな間違いだ
~ソーシャルメディアはジグソーパズルのピースである2011.12.19
佐々木俊尚現在の視点
2011年に書いた記事ですが、今でもSNSをめぐってまったく同じ状況であることには驚かされますね。SNSの本質は、ニュースなどの情報や流れるインフラであり、そこに集まってくる人たちによって構成されるビオトープ(圏域)である。だからSNSを「流行」「トレンド」として捉えてしまうと誤ってしまうということを解説しています。今でもインスタグラムやティクトクなどに「流行」の減少は確かにありますが、しかし決してそれらのSNSで流れている情報がすべて流行に回収されてしまっているわけではありません。あらためてSNSの意味を考えたいと思います。
TwitterやFacebookを「流行のトレンド」ととらえるのは大きな間違いだ
非常に残念なことに、いまだにソーシャルサービスを単なる「流行」ととらえ、「流行に乗り遅れるな!」という発想で利用しようとする企業が少なくありません。Facebookを使う人が増えると、「Twitterは終わった。次はFacebookだ!」と大騒ぎし、「今年はFacebookの年だった。2012年は今度は何が来るのでしょうか?」と怪しげなトレンド予測をしてみたり。
たとえばそれがコンテンツやガジェットのようなものであれば、今年は○○が流行り、来年はもう廃れて次は△△が・・というトレンド的なとらえ方は成り立つでしょう。しかしソーシャルメディアは、そうしたコンテンツやガジェットとは性格がまったく異なっており、そのようなトレンド予測の枠内で捉えることは間違っています。
なぜでしょうか。
その結論を説明する前に、少しこれまでの流れを振り返ってみましょう。
ソーシャル系のサービスには、ブログやSNS、Twitter、そして食べログやクックパッドなどのクチコミ系のウェブのサービスがあります。この中で最初にブレイクしたのはブログ。2003年ごろから先端層(イノベーター)で使われるようになり、2006年ごろまでにはニフティやライブドア、ヤフーなどの各種ブログサービスが出そろって広く利用されるようになりました。アルファブロガーアワードが開催されて、著名ブロガーが注目されるようになったのもこのころです。
この2006年前後は梅田望夫さんの『ウェブ進化論』とともにWeb2.0という用語がもてはやされたこともあり、ソーシャルメディアの威力が初めて社会に認知されるようになった時期でもあります。同時にブロガー向けに情報提供やイベント開催を行うブログマーケティングが行われるようになったのもこのころからでした。
しかしこれ以降、なぜかその後登場してくるソーシャルメディアは「トレンド」と見なされるようになっていきます。
たとえばその象徴が、2007年にちょっとだけ盛りあがったセカンドライフ。これはもう忘れている人もいるかもしれませんが、ネット上で3Dの仮想世界を提供する米国のサービスでした。仮想世界内で流通している貨幣を米ドルに交換できることが特徴で、100万ドル以上の儲けを出したミリオネア(百万長者)も現れたことなどもあって当時大きく注目されたのです。
ちなみにこの仮想世界の中で運営会社が提供していたのは、有料の土地と家具や建物、衣装などをデザインできる無料のソフト。この土地を大量に賃貸し、その上に独自のデザインでプログラミングした建物をいくつも建て、さらに家具などを並べて「賃貸ハウス」を有料で提供したというのが、くだんのミリオネアのビジネスモデルでした。
これに飛びついたのが、日本の日経新聞と電通。日経はなぜか「ブログの次はセカンドライフ」というような論調でさかんにこのサービスを紙面で取り上げ、それに乗っかるかたちで電通は「巨額のカネが動き、さらには最先端のインターネットユーザーが利用しているので広告宣伝媒体に最適」と大企業に営業攻勢をかけ、セカンドライフ空間内にショールームを出させたりしました。
しかしこのブームは非常に空虚なバブルでした。そもそもセカンドライフのアプリを動かすのには当時としてはかなり高性能なPC必要で、一般家庭にある安価なパソコンでは満足に動作しなかったこと。また日本人の利用者も多くなく、当時の会員数は2万数千人ぐらいしかおらず、さらにアクティブユーザーとなると1000人足らずという状況で、ほとんど広告効果は上がらなかったのです。
それなのになぜこれほど日本国内でセカンドライフが盛り上がってたのかといえば、当時言われていたように「仮想空間の動画を見せれば、ITに弱い会社経営者でも『こりゃ面白い』とすぐに理解できる」というような、IT無知が原因。それを承知で電通がバブルを煽って無知な経営者を煽ったというのが実状でした。ちなみにショールームを出した企業はどこも広告効果がまったく出ず、結果的に電通はコンサル料をほとんど回収できなかったという話を後に聞きました。セカンドライフの伝道者としてメディアに露出しまくっていたあの電通の担当者の方はいまどうされているのやら・・。
結局のところ、セカンドライフは広告業界にとっての「新たな商材」にすぎなかったというわけです。そしてセカンドライフのプチバブル崩壊後も、そのような新たな商材探しが次々に行われています。ミクシィが普及し始めると「これからはSNSマーケティング!」と大騒ぎし、Twitterが出てくると「ブログは終わった。これからはTwitterだ!」。そして最近ではご存じの通りFacebookブーム。今年初め、Facebookを舞台にした映画『ソーシャルネットワーク』が公開されたころはプチFacebookバブル状態となり、たとえば週刊エコノミストは「フェイスブック大旋風」とあおり、週刊ダイヤモンドは「2011年フェイスブックの旅 全世界で6億人がつながるネットワーク」とぶち上げました。
この経済紙の悪のりと共犯関係にある広告業界は、これらの雑誌を手に企業に営業攻勢をかけ、「フェイスブックでマーケティングしないと乗り遅れますよ!」的なノリでIT無知な企業からお金をむしり取る・・というような構図がここ数年定着してしまっているのです。
実際、私もそのような場面はたくさん目にしました。どう考えてもFacebookを使ってないであろうシニア層にしか訴求しなさそうな商品のマーケティングをFacebookページで展開し、そしてその案件を扱っているのは、当然のように大手広告企業のメハシの聞きそうな営業マンという構図・・。「この商品、Facebookユーザーとセグメントが合うんですか?」と試しに聞いてみると、「先端的な仕事をしている若い人たちに使ってほしいので」とその実直そうなメーカー担当者は答えてくれましたが、きちんとマーケティングリサーチしている様子はなく、広告企業の営業マンの口車にうまく乗せられているという雰囲気が濃厚でした。
しかし現在のソーシャルメディアは、マスマーケティングではありません。Twitterは2000万人、Facebookはわずか500万人。日本人全体から見れば、利用者層はまだ少数派でしかないのが実状です。「でも2000万人も使ってるんでしょう? すごいマスボリュームじゃないですか」と反論される方かもいるかもしれません。しかしTwitterのユーザー数2000万人というのは、「特定のあるテレビ番組を数百万人が見ている」というマスボリュームとは、まったく質が違います。
そこで冒頭に掲げた「ソーシャルメディアは流行のトレンドではない」という結論に戻りたいと思います。この理由は2つあります。