人はわずか50回の「いいね!」で陰謀論に陥る ~思想を過激化させない「SNSの使い方」(前編)
佐々木俊尚現在の視点
陰謀論がどのようにして拡散するのか。アメリカの大学での研究を紹介しています。当初は陰謀とまっとうな科学の両方に反応していた人も、陰謀論の動画を見始めてだいたい50回目ぐらい『いいね』をした段階で完全に陰謀論にはまってしまうそうです。
人はわずか50回の「いいね」で、陰謀論に転んでしまうこともある
〜SNSが生み出す情報の島宇宙化にどう対処すればいいのか(前編)
トランプ政権誕生などポピュリズム的な政治潮流が世界的に広がってきているなかで、インターネットの「島宇宙化」が政治に与えている問題についての議論が増えています。
この背景には、情報の流通基盤が従来のようなポータルサイト(ヤフーニュースをイメージしていただければわかりやすいですね)やマスメディアから、フェイスブックやツイッターなどのSNSへと移行してきたことがあります。
そもそもインターネットの機能は、大きく2つに分けて「情報流通」と「つながり」がありました。いずれの機能が主になるかによって、ネットのサービスは二分でき たのです。
たとえば検索エンジンやブログ、メールは情報流通が主体。LINEなどのメッセンジャーやスカイプなどの動画コミュニケーションサービスは、つながりが主体です。SNSももともとは、この2つに分類されていました。たとえば2000年代のサービスでいえば、ゲームが主体だったグリーやモバゲーは情報はほとんど流通しておらず、ゲームというメディアを経由した「つながり」が中心のサービスだったと言えます。昔のミクシィなどもそうですね。
フェイスブックも当初は、ハーバード大学内の交友関係を可視化するためにマーク・ザッカーバーグが開発したSNSで、まさにつながりサービスでした。しかし巨大化して広告効果などが期待されるようになっていった結果、2009年ごろから徐々に情報流通のメディアへと変容してきています。これは気がつけばそうなったというよりは、広告を中心としたビジネスモデルを成長させるため、ザッカーバーグら経営陣が意図的にそっちの方向へ持って行ったと考えた方が良いでしょう。
ツイッターも同じです。フォロー/フォロワーの身近な人間関係でのやりとりを想定してスタートしたこのサービスは、伝播力の早さや情報発信のハードルの低さなどが受け入れられて、急速に情報流通メディアとして成長していきました。
このようにSNSが情報流通の基盤になると、思いも寄らない副作用が生じます。それを私は以前、デジタルデバイドになぞらえて「ソーシャルデバイド」と呼んだことがあります。
デジタルデバイドというのは1990年代に使われていた用語で、インターネットやPCなどのテクノロジを使いこなせるかどうかによって、経済的な格差につながってしまうという議論です。実際にはスマホが普及して安価かつ容易にインターネットにつなげられるようになり、デジタルデバイドは実質的に解消しました。
じゃあソーシャルデバイドというのは何でしょうか。これは「SNSが使いこなせるかどうか」という話ではありません。日本社会を見わたしてみれば、LINEなどはあらゆる世代、あらゆる階層に普及している感じで、デバイド(格差)などはなさそうですね。だから「使いこなし」には差は生じていない。