コンテンツの電子化が「作家と読者の関係性」を一変させた

佐々木俊尚の未来地図レポートのアーカイブ Vol.105をお送りします
佐々木俊尚 2023.01.05
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佐々木俊尚現在の視点

 電子書籍の時代にブックデザインはどう変わるのか、それとも消滅していくのかという2010年の論考。いまや音楽でもジャケットデザインは単なるアイコンと化していますが、いっぽうでYouTubeで再生されるMVがかつてのジャケットの役割を果たしているようにも思えます。では電子書籍における「MV」とは何なのか、を考えたくなります。

電子書籍でブックデザインは消えて無くなるのか

 今年1月、Twitter上で「猫の本」が盛り上がったことがありました。最初のきっかけは、早川書房の公式アカウント(@Hayakawashobo)のこのツイート。「『人生の艱難辛苦から逃れる方法はふたつある。音楽と猫だ』アルベルト・シュヴァイツァー」

 この後、早川書房は「猫ネタは本の話より食い付きがよいと気づく。ご存知の方もいらっしゃるかもですが、ノンフィクション編集部の編集長は猫である件」と続け、これに筑摩書房が「万城目学最新刊『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』マドレーヌ夫人は猫でございます。」。平凡社は「出版各社が昼食の隙をぬって平凡社最強の猫本2冊をあげておこう・・・」とURLを投げ、これに出版社各社や書店、読者も参加して大きな盛り上がりになりました。

 このあたりのやりとりは、TwitterのまとめサイトTogetterに記録されています。

■twitter猫本フェア

http://togetter.com/li/3614  このやりとりをまとめる形で、河出書房新社の人がPaperboy & Co.の蔵書管理サービス「ブクログ」に、「Twitter猫本棚」を作成します。

■twitter猫本棚(猫フェアブックリスト)

http://booklog.jp/users/kawadeshobo  蔵書管理サービスは「メディアマーカー」など国内にいくつかありますが、このブクログの特徴は「書店の平台のように本の表紙デザインを並べて見ることができる」ということ。メディアマーカーがリスト風の画面デザインとなっているのと比べると、非常に特徴的です。

 河出書房新社は、ブクログに本棚を作成するのと同時に、こうツイートしています。「猫本フェア本棚つくりました。リアル書店さんにほんとにこんな棚ができたらいいなあ」

 そしてこのツイートに呼応する形で、先週も本メルマガで紹介した東京・千駄木の往来堂書店が、リアルの書店店内での猫本フェアを提案。「猫本フェア、やります!

 『私は猫ストーカー』のロケ地っすよ谷中は。(お)」と往来堂の笈入店長がツイートしています。

 この後、笈入店長はこんなコメントも。「コメントをPOPカードにして・・うーん、でも本屋に実際に足を運ぶと何かいいことがあるといいなぁ、とこれがいつもの悩み」  そうして往来堂書店の猫本フェアは、2月5日にスタートしました。往来堂書店のツイート「『ツイッター初!?ツイッター発!猫本フェア』は2月5日から。期間はとりあえず1ヶ月、3月4日までとします。でも好評につき、延長!になるんじゃないかな」。このあたりは以下の平凡社のブログにもまとめられています。

■2月5日(金)より往来堂書店にて「猫本フェア」(今日の平凡社)

http://heibonshatoday.blogspot.com/2010/02/25.html

 猫についての本は文芸書、とくに絵本が多く、このため紙の書籍としての質感が前面に出ているケースが多いようです。Twitterでの紹介やブクログの本棚ではわからなかったこうした質感が、実際に往来堂書店に足を運ぶことによって皮膚感覚的に理解されるというメリットは大きかったのではないでしょうか。

 往来堂の笈入店長は私の取材にこう話しています。「新書のような本は電子化される可能性が高いと思うのですが、いっぽうで電子化されにくい本もあると思う。今回のような猫の本の場合はブックデザインにバラエティが富んでいて、モノとしての本の意味があったのではないかと思います。書店では今後はそういうモノとしての本を扱う方向に進むのかもしれない」  ではそうした「モノとしての本」というのは、電子書籍化されていく時代にどのような可能性を持っているのでしょうか。

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