情報収集とは「必ず失敗する法則」を探すこと、真実なき時代のメディアリテラシー
佐々木俊尚現在の視点
ある販売コンサルタントの人から聞いた言葉。これは情報の収集にも当てはまるのではないでしょうか。「みんな、どうやったら売れるのかと答えを求めたがるけれど、絶対に売れる方法なんかありません。もしひとつだけ確実な法則があるとしたら、それは『これをやったら必ず失敗する』という法則だけです」
「絶対に売れる方法はないが、絶対に売れない方法は確かにある」
~~偏りがなく奥深い情報を読むためのたったひとつの方法(第1回)
皆さんは、どこから情報を得られているでしょうか? さすがに本メルマガの読者には「新聞と雑誌だけ」という人はいないでしょう。ネットが中心になっているというのは今では当たり前ですが、新聞や雑誌と違って、発信者はたくさんいて、情報がながれる経路も無数にある。特に情報がながれる経路の多さは難しいポイントで、どこを流れてくる情報に頼るのか?という課題が出てきます。
そこ今回は、情報収集のためのカギとなる視座を考えましょう。二つの「落とし穴」があります。
第一に、あなたが読んでいるその情報は、偏っていないだろうか?
第二に、あなたが読んでいるその情報は、薄っぺらくて表面的ではないだろうか?
この二つの落とし穴を、注意深く自分の情報収集から取り除かなければなりません。
今は多くの人が、ツイッターやフェイスブックなどのSNSから流れてくる情報を見ていることと思います。もちろんわたしもSNSを大事な情報源のひとつにしていますが、SNSにはひとつ問題があります。それは先にあげた第一のポイント、つまり情報がいちじるしく偏ってしまうことです。
SNSというのは本来は人間関係のインフラだったのに、いつのまにか情報がながれるインフラにもなってしまっています。人間関係と情報経路が重なってしまったということなのだけれど、そうするとどういう人間関係をつくっているかで流れてくる情報が決まってしまう、という問題が出てくるわけです。それが趣味とか仕事の専門分野の話ならとくだん問題はないでしょう。野球が好きな人が野球選手をフォローして野球の情報が流れてくるのは嬉しいし、農家さんが農業の専門家の人をたくさんフォローしていれば、農業の知識がますます増える。
でもわたしたちは、趣味や専門分野の以外にも知らなければならないことはたくさんあります。世界をちゃんと見るためには、さまざまな分野にアンテナを張っておいたほうがいいに決まっています。しかしここで問題が出てきます。21世紀の社会は、情報でさえも分断されてしまっているという問題です。特に政治や社会、経済などの難しい分野において。
この10年のあいだに使われるようになったメディアの用語に、オータナティブ・ファクトとポスト・トゥルースがあります。オータナティブ・ファクトは「もうひとつの事実」という意味。これは2017年のアメリカのトランプ大統領就任式で、集まった観衆がかなり少なかったのに、ホワイトハウスの報道官がテレビで「過去最大の人びとの数」と称賛した事件で生まれた言葉です。
インタビュアーが「なぜそんな嘘をつくんですか?」と聞き返すと、報道官はしれっと「それがもうひとつの事実」と反論。これが世間の失笑を買って広まって、そこから「嘘も方便」のように事実を捻じ曲げてでも広まってしまうニセニュースのことを、オータナティブ・ファクトと呼ぶようになったのですね。バカバカしいですが、オータナティブ・ファクトは日本のSNSでもそこらじゅうに広まっていて、「なんでそんな嘘を信じるの?」というような話がたくさんシェアされ、無数に「いいね」され、拡散しているのを日常的に目にしますね。