的中!日本初の「ノマド」本が予言した未来の暮らし/「コロナ後」とテクノロジー(3)
佐々木俊尚現在の視点
2009年に『仕事するのにオフィスはいらない ノマドワーキングのすすめ』(光文社新書)という本を刊行しベストセラーになったのですが、これが「ノマド」という言葉が日本社会に広まった最初の起爆剤でした。あれから10余年を経て、コロナ禍のリモートワークの定着でようやく現実のものとして広まろうとしています。
特集 2009年の著書「仕事をするのにオフィスはいらない」は2020年に現実になった〜〜「コロナ後のライフスタイルとテクノロジー」経済倶楽部講演から(第3回)
今年6月5日に歴史ある「経済倶楽部」でわたしがおこなった「無観客」講演の内容を紹介するシリーズの3回目です。演題は「ポストコロナ時代のライフスタイルとテクノロジー」。
移動生活というものについては、わたしは前から非常に興味を持っていて、自分の主たるテーマとして論じてきました。
2009年に『仕事するのにオフィスはいらない ノマドワーキングのすすめ』(光文社新書)という本をだしています。これは3.5万部ぐらいのそこそこのベストセラーになりました。個人的な自慢になってしまいますが(笑)、ノマドという言葉が日本社会に広まった最初の起爆剤は、この本でした。何となくカフェとかでパソコンを開いて仕事をする人という割に単純なイメージにその後変わってしまったのですが、このノマドという言葉を移動しながらオフィスではない場所で仕事をするというイメージで使ったのは、この本が日本で最初です。
この本で書いたのは、おそらく今後オフィスはなくても、モバイルデータ通信とかで十分リモートワークが可能になるだろうという予測です。当時は2009年で、まだスマホは出たか出ていないかぐらいの段階。しかしその後、2009年から2011年間の間にすごい勢いでスマートフォン、タブレットが進化し、今の最新のiPhoneのようなスマホでは、もうPCとほとんど差のない能力になっています。これで仕事をする若い人も増えていますね。
同時にパソコン環境も変わりました。パソコンそのものの形は変わりませんが、クラウドのサービスを利用することで、ウェブ上で何でもできてしまい、手元に書類などを持たないで済むというようなやり方が100%可能になってきています。
わたしは近年、何でもかんでもクラウドを使うようになってきていま すけれども、いちばん楽になったのは請求書です。いろんなことがPCでできるようになっても、フリーランスの仕事で最後まで残っていた、請求書を起こすという仕事がありました。金額を書いて、自分の振り込み先とか相手の会社とか項目とかを書いたエクセルなどで請求書をつくり、それをプリンターで出力して社印をポンと押す。それを折り畳んで封筒に入れて、宛名を書いて切手を張ってポストに出しに行く。せいぜい10分ぐらいの作業ですが、これが月々何十枚とか100通とかあったりすると、結構ばかにならない面倒くささがあるのです。しかも、移動先だとやりにくい。プリンターがないとできないとかいろんな面倒があるのです。
しかし、しばらく前にMisocaという便利なウェブのサービスが登場してきました。これは何をやってくれるかというと、ウェブブラウザ上で宛先とか金額とかを登録しておきます。ひんぱんに請求する宛先はもう登録されている。それで金額を入れて、日付もつけて、郵送というボタンをぽんと押すと、その会社の提携しているどこかの工場でその請求書を実際に出力してハンコを押して、折り畳んで封筒に入れて郵送してくれる。リモート郵送です。これが出てきたときは本当にうれしかったですね。
ところが、今回のコロナでどうなったかというと、ついに請求書を送る相手の会社もリモートワークになっているので、「すみません佐々木さん、請求書を送られても受け取れないので、メールにpdfで添付してください」という形になり、ついに請求書の郵送も今やなくなりつつある。リモート化してくると、あらゆる物理的なものがどんどん減っていくということが起きるわけですね。
だから、2009年に書いた『仕事するのにオフィスはいらない』という本が、ついにこの2020年のコロナ禍の中で完全実現してきたなという感慨があります。
もう一つ大事なのは、マインドの変化です。